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Fast-風土

富田直樹

2025年9月18日(木) - 10月22日(水)

MAHO KUBOTA GALLERY では9/18(木)より富田直樹の個展を開催いたします。郊外や東京の風景を描いたペインティング約10点と、アーティストのキャリアにおいて初となる版画3点を展示いたします。

富田直樹は、キャンバスに油絵具の色彩を一筆一筆丁寧に置く独自の筆致によって、色彩という絵画の本質的な要素から世界を立ち上げる表現で知られています。デビュー以来一貫して「風景」や「名もなき人々の姿」を主題に制作を続け、関東近郊のロードサイドや都市の駐車場、路地、さらには旅先で出会った光景まで、多様な場所を描いてきました。実際に目にした風景を写真に収め、そのイメージを掬いとるように絵画に落とし込む彼の手法は、国境を越えて多くの鑑賞者の心をとらえてきました。

展覧会タイトルの「Fast-風土」は、社会学の概念「ファスト風土化」に由来します。郊外化によって日本各地どこにでも同じような郊外型チェーン店や大型モールが立ち並び、地域固有の景観や文化が失われていく現象を指します。便利である一方、どこに行っても没個性で特徴のない風景が広がることを批判的に表した言葉です。
富田は茨城県取手市の出身で現在も同地にスタジオを構えています。上記のようにネガティブに語られることがあるロードサイドの景色は、彼にとっては生活や制作の基盤となってきた環境です。外部からは凡庸に見える場所をあえて正面から描くことで、自らが立脚してきた視点を提示し、現代をともに生きる私たちのリアルな感覚を映しています。

富田の絵画に繰り返し描かれる、夕暮れや朝焼けなどマジックアワーの情景、雪の轍とファミリーレストランの灯りなど、生活のひと場面を季節や天候と合わせて情緒的に表現したり、人工物と自然物を対比させて表現する手法は、大正から昭和にかけて活躍した版画家、川瀬巴水にも通じます。川瀬が風景に情感を与え、当時の人々に身近な光景を新たな価値として示したように、富田も現代の風景を独自の視点で描き出します。

また、今回の展示では、作品を掛けるために「軽天」と呼ばれる鉄の構造をギャラリー内に設置しました。天軽をまたいだりくぐったりする際に作品の裏側が見えたり、いつもとは異なる高さや角度で作品に視線を向けることになると思います。その体験は、路地を覗き込み思いがけず新しい景色を発見したときの感覚に重なります。子どもの頃、郊外の空き地や建築現場で遊んだように、環境と視覚的・身体的に関わりながら世界を獲得していく――そのような体験へとつながれば幸いです。