過去の展示

郊外少年/suburban boy

富田直樹

2016年5月10日(火) - 6月11日(土)

MAHO KUBOTA GALLERYでは5月10日より1983年生まれの若手ペインター、富田直樹の新作展を開催することとなりました。2015年に東京オペラシティアートギャラリーProject N 枠にて個展を開催、現代芸術振興財団アートアワードにて審査員特別賞を受賞するなど、今後の活躍が期待される若手アーティストです。「郊外少年/suburban boy」と題された本展では、大都市近郊のロードサイドの風景や、フリーターの若者の顔を描いた大小の油絵の新作が展示されます。

富田の技法は対象を削り出すように重ねてマチエールを作っていく厚塗りの絵具の表現に特徴的です。継続的に取組んでいる《No Job》のシリーズでは、雑誌などで見つけたフリーターの若者達の顔が18 x 14 cm /F0号という小さなキャンバスの上に描かれています。富田は「フリーターと聞くと一見ネガティブな印象を受けますが、私は無とも呼べるこの状態を新しく何かが始まる可能性や希望として捉えています」と説明します。

ニュートラルな状態をネガティブに空虚と捉えるのではなく、そこからもれて見える光の部分を描きたいという富田自身の願いは、同様に多く描かれる近郊の風景や、空きテナントのファサード、不動産屋に案内された空き部屋の光景、持ち主が不在の指輪などに向けられた眼差しからも見て取ることができます。その願いを裏打ちしているのは過去の喪失の経験ととらえることもできるかもしれません。5年前には未曾有の災害を経験し、今もまた失うものが多すぎる2010年代の日常。まるでフィクションの世界のように「全てを失った僕らの再生」を描く油絵のリアルは、厚塗りの絵具のマチエールに光だけでなく影を宿しているからこそ、眩い印象をもって鑑賞者の心に届きます。