安井 鷹之介

The Plaster Age

2021年06月29日(火) - 2021年07月31日(土)

"Time to Pretend -Rodin-" 2021、181x61x100cm、石膏、綿布、アクリル絵具、木材、ウレタンスタイロフォーム
”Big Night" 2021、96.5x63.5x51cm、石膏、綿布、アクリル絵具、ウレタンスタイロフォーム、木材
"Monica" 2021, 49.5x29.5x31cm, 石膏、綿布、アクリル絵具、木材
安井鷹之介「The Plaster Age」、MAHO KUBOTA GALLERY、展示風景
安井鷹之介「The Plaster Age」、MAHO KUBOTA GALLERY、展示風景
安井鷹之介「The Plaster Age」、MAHO KUBOTA GALLERY、展示風景
安井鷹之介 「The Plaster Age」

不均一に隆起を繰り返すメディウムの質感と絶妙にコントロールされた色調のコントラスト、皮膜が拾う硬質な光の反射のリズム、フォーカスの定まらない対象。それらを特徴とする、ややもするとごく商業的とも捉えられる絵画によって若手アーティスト・安井鷹之介は広く注目を集めるようになりました。一方で安井の作品群の本質は彼が純粋に彫刻家であることに強く起因します。「石膏時代」と題された本展では等身大の彫像を中心に据えた意欲的なインスタレーションが計画されております。

安井の、特に彫刻において顕著な表現言語は、地理や時代や思想を越境する正体不明さを多分に孕んでおり、出自を突き止めようと視線を巡らせたとしても作品の表層に展開されるノイズ模様にいともたやすく撹乱されてしまいます。そしてプレイフルなカモフラージュ模様に覆われた立体の奥にはクラシックな彫刻のルールに則った強固な様式美が存在しています。彫刻の伝統と強く接続しながら、一方では簡単に回収されることを拒むようなブレを生じさせた表現には、初期の作品から安井自身がこだわってきた古典を踏襲しつつ現代のダンスを踊るようなしなやかな両義性が感じられます。

同様に自らをつまびらかにしない構成素材による彫像は、不均一な凹凸を拾うことで反復される小さな光沢のリズムと硬質で滑らかなテクスチャにより、陶器でできた立像のようにも見え、紙で形作られたもののようにも見えます。堅固な構造を担保する一方で次の瞬間にはまったく別の形態へと形を変えてしまいそうな流動性も感じられます。安井が彫刻に用いる素材の正体は、伝統的な彫刻の鋳造プロセスにおいて中間素材として用いられる石膏であり、その表現上の特質について安井本人は「石膏のもつ脆さや弱さ、可塑性素材の置換の中間にある献身性にも似た性質に」想像力をかきたてられると言います。

古来より西欧彫刻のメインストリームを司るのは大理石や青銅などモニュメンタルで建築的な素材であり、それらの多くは時の権力や支配者、強い信仰と結びついて制作されてきました。伝統的な美術学校の彫刻学科の学生の原点として学んできたそれらのソリッドな「強い彫刻」に対し、安井は人の手が力を加え自在に形づくることができる石膏という中間素材に着目し、それを主素材として用いることによって生まれる自らの作品をフルイドな「弱い彫刻」と呼びます。古典的なスタイルを何度も繰り返し体に覚えさせることによって得られる自由。安井による「弱い彫刻」は、ネガティブな表現ではなく、「身体性」と「流動性」をもって「変化する」「自由で」「流動的な」彫刻を指し示しているのかもしれません。歴史上のナラティブへの観察者の視点を持ちつつ、物語の構造を現代を生きる個人の座標へと変換させる作業を繰り返したのち、本展ではグレイトーンに彩られた約30点ほどの彫像が立ち並ぶ圧倒的なインスタレーションが展開される予定です。