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貨幣の記憶

AKI INOMATA

2021年4月13日(火) - 5月22日(土)

MAHO KUBOTA GALLERYでは4月13日よりAKI INOMATAの個展「貨幣の記憶」を開催いたします。動物との共働によって作品を制作する現代アーティストAKI INOMATAは2018年にはナント市美術館、2019年に十和田現代美術館と北九州市立美術館での個展、また2020年から本年にかけてはニューヨーク近代美術館で開催されている「Broken Nature」展等、国内外で継続して作品を発表しております。動物と人間との関係や、生物のあり方の歴史的変容をとらえ直すことで、私たちの世界がもっている〈可塑性〉(plasticity)を示してくれるのがINOMATAの作品の特徴のひとつでもあります。

本展のタイトルでもあり、ここ数年INOMATAが取り組んでいる進行中のプロジェクト「貨幣の記憶」は、近代以前には貨幣としても使用された貝殻を現代の通貨と結びつけ「貨幣の化石」を作りだす試みです。真珠貝に福沢諭吉、エリザベス女王、ジョージ・ワシントンなど、諸国の通貨を象徴する人物像を型取った小さな核を挿入し、真珠質が核の表面を覆うことで人物の形の真珠が出来上がります。本展はこれらの真珠化した人物像から成る真珠貝の作品とそれらを巡る映像と写真の作品で構成されています。海のなかをイメージさせるような作品配置がギャラリー内に展開される予定です。人が作り出したものではない自然の貝殻と人が作り出す通貨とが融合されることで、自然種と一体となった貨幣があらたに出現します。それは、未来の人類によって〈化石〉として再発見される可能性すら、私たちに予感させるものとなるでしょう。INOMATAによるもう一つの想像世界を、是非本展にてご高覧いただきたくご案内申し上げます。

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長旅から帰国し、空港で両替をする。ひさしぶりに手にした日本円の紙幣は、どこか懐かしく、そしてなんだか “とてつもなく昔のもの” のように思われた。日々、私たちは考古遺物を手にしている。そんな妄想をして、くすりと笑った。日常の支払いはSuicaやクレジットカードであらかた済まされている。両替した紙幣は、しばらく私の長財布のなかで悠々と眠りつづけた。そこには福沢諭吉が描かれていた。

貨幣の化石をつくりたい。
そう思ったのは、国境を超えて、両替をしたあの日のことがきっかけになっているのかもしれない。紙幣に描かれた肖像を取りだし、真珠貝の核としてそこに挿し入れた。古くから貝殻は加工され、装飾品として用いられたり、貝貨として交易で使用されてきた歴史がある。紙幣の肖像を貝殻に入れ、海へかえす。それは、貨幣の歴史を掘りおこすと同時に、生物種の存在にたいする内省でもある。

貨幣の本質は、譲渡可能な「信用」であるといわれる。とりわけ紙幣は、国家を象徴する肖像画が描かれていることからも伺えるように、国の信用をベースに成りたっている。でも、この仕組みがいつまで続くのか、本当のところは誰にもわからない。貨幣という複雑なシステムは私たちの理解を超えてきているのかもしれない。

<AKI INOMATA 個展に寄せて>