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B&W

長島有里枝

2020年10月16日(金) - 11月21日(土)

MAHO KUBOTA GALLERYでは、10月16日より長島有里枝の個展を開催致します。2017年の東京都写真美術館の大規模な個展の後、ちひろ美術館、横浜市民ギャラリーあざみ野での個展、群馬県立近代美術館で開催された竹村京との2人展と、近年美術館での展覧会が続いている長島有里枝ですが、当ギャラリーの個展での展示は4年半ぶりとなります。
本展では長島が祖母から引き継いだ大量の押し花を印画紙の上に並べ制作した8×10 のフォトグラムの作品と木板に写真用感光剤を塗布してプリントした風景の作品を展示いたします。前者は群馬県立近代美術館、後者は横浜市民ギャラリーあざみ野でそれぞれ発表された作品ですが、いずれも長島本人が暗室の中でプリントしたモノクロの写真作品であり、今回はこれらを新たな構成のもとインスタレーションの形態で発表いたします。
2020年の年初から突然世界を襲ったパンデミック。誰も予想することすら難しかったこの災禍は私たちのそれまでの当たり前の生活を大きく変えてしまいました。アートの世界でも大きな変化が起こっています。社会的距離をとることが必然となった日常の中で、インターネットのバーチャル世界等を通じてこれまで以上に膨大な数のアート作品のイメージが流通し大量に消費されてゆくようになりました。イメージは社会の共通認識の中で反復し、共有されどんどん複製されてゆきますが、重力をもたないデジタルイメージの漂流の渦の真ん中には得体の知れない空洞がぽっかりと大きな穴を開けているようにも感じられます。

誰もが日常的に高精度のカメラを携帯電話として持ち歩き何気なく捉えた画像をSNS等を通じて発信する現在、メディアの中で毎日目にする膨大な数の写真は単なる視覚情報として捉えられ、スピードにのって重力を失いもともと持っていた物質的な成り立ちからどんどん切り離されてゆきます。そんな中、暗室のバットの中で印画紙を扱い焼き付けてゆくアナログな作業を、長島は「単なるイメージだと思われているものを世界に存在する物質に置き換える」プロセスだと表現します。
本展は過去に網膜が捉えたイメージの再現であるとともに物質としての重みをもった写真のプリントが、記憶と結びついた象徴性を暗示しながら鑑賞者との間にレイヤーを隔てて構成されるインスタレーションとして展開されます。

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本展に寄せたアーティストのテキスト

「去年おととしとモノクロ写真を自分で手焼きする機会を得て、暗室作業の楽しさを再認識しました。
プリント作業は、暗闇の中で自分が切り取ったイメージと再会し、対話する場所のようなものです。

カラープリントは全暗のなかでの作業ですが、モノクロプリントは赤色灯を付けることができます。
暗室は、昔、寝るときに暗闇が怖くて豆電球をつけっぱなしにした寝室と、明かりの感じが似ています。
眠りに落ちるまでいろいろなことを考えたあの時間に似た時間を、暗室では過ごします。
そこは自分だけのなにもかもが曖昧な世界のような感じです。
身体的な作業に加え、簡単な計算と勘と運が頼りです。
わたしはそこで、単なるイメージだと思われているものを世界に存在する物質に置き換えます。

コロナウイルスの蔓延によって、人間は身体的に互いから遠くなりました。
いま懐かしく思うのは触ることで、見ることではないなと思う。ほとんど視覚の効かない暗室で、手で確かめながら作り上げていった物質としてのイメージに強い愛着を感じるし、モノクロプリントを自分でするためにモノクロの写真を撮ろうとまで考えるほどになりました。
普段、写真は額に入れず壁に直接貼ることが多いけれど、今回は作品と観客を隔てるレイヤーのようなものを写真の前に置きたいと思いました。」