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「こわれもの」

小笠原美環

2018年9月20日(木) - 10月20日(土)

MAHO KUBOTA GALLERYでは9月20日より小笠原美環展を開催いたします。

誰もいない静かな室内、窓辺から差し込む光と部屋の隅の陰影、風をはらんでふくらんだカーテン、湖を見つめる少女の姿、北ドイツを思わせる硬質な光をたくわえた森の風景。京都出身の油絵画家、小笠原美環は、日常の静謐な光景をグレイを基調としたモノトーンで描くアーティストです。 その作品は制作拠点であるドイツを中心としたヨーロッパおよび日本で広く評価されてきました。 東京では2007年、2010年、2013年に個展を開催。2013年には国立新美術館でのグループ展でも作品を発表し、これらの機会を通して熱心なファンに支持されております。

小笠原は思春期の多感な時期に単身カリフォルニアに渡り、18歳でドイツに移り住みます。その後、ハンブルグ芸術大学にてノベルト・シュワンコウスキーやヴァーナー・ブットナーに師事し、ゲルハルト・リヒター、リュック・タイマンス、ピーター・ドイグ等ヨーロッパの現代絵画に巨匠たちの作品に刺激を受ける日々を過ごします。 大学卒業後すぐにドイツの地で芸術上の理解者を得た幸運もあり、ドイツのアートギャラリーや美術館を中心に作品発表をし、アーティストとしてのキャリアをスタートします。ハンブルグにて理想的な制作環境と発表の機会を得ることで、成熟した現在の作品につながる強固な表現のスタイルが出現しました。

小笠原美環の作品にはたとえ風景や室内、少女の姿といった対象がはっきりと描かれていたとしても、実際に本人が描いているものは目に見えない、そして手で触れることもできない意識の流れのようなものだと考えることができます。 形のないものを描く上で、小笠原は絵画の精神世界に鑑賞者が自らの意識を共鳴させていく仕掛けを巧妙に用意しています。 それは鑑賞者の五感の引き出しを唐突に開く、鍵のようなもの。光のゆらぎ、風のボリュームとうつろい、鳥の声、陶器の冷たい手触りやガラスの反射。 次の瞬間には幻のように消えてしまう捉えどころのないこれらの断片の質感を絵画で扱うことによって、鑑賞者の意識を絵画世界に誘い、その豊かな空間を体験させるのです。

「こわれもの」という不可思議な言葉で題された新作および最近の作品から成り立つ個展には、ここ数年の世界の動向に対しアーティスト自らが感じた心の状態が投影されています。 さりげない日常の光景の中に宿る、現代社会の課題への冷静なまなざし、そして世界と自らの関係性。より深みを増した絵画群からなる日本では5年ぶりの個展となります。