加賀温

The Search For Languorous Magic

2018年03月06日(火) - 2018年04月07日(土)

Usacchi with beans (after Kunisada), 2018, キャンバスにアクリル絵具
The invisible pink balls make us chilled when they touch us, 2018, 板にアクリル絵具
Orange eaters (Remixed), 2018, 板にアクリル

MAHO KUBOTA GALLERY では3月6日より加賀温の個展を開催いたします。

鏡の中の自分に向かって話しかけるウサギ、頭だけのパンダ、足を怪我したクマに、昼と夜で別の顔をもつ人間の若い女性。加賀の作品の世界には不思議なキャラクターたちが住んでいます。多くの場合作品には、それぞれに個性的な名前をもつ彼ら同士の会話や、独り言のような英語のテキストが描きこまれています。情景をよく観察しつつテキストを頭の中で追ってみると、時にドキっとするような辛辣な言葉や、皮肉めいた情景、人生に対する少しだけ悲しく、しかし思わず笑いを誘うような視点、日常の小さな発見に対する感嘆の表現などが散りばめられ、独特なユーモアのセンスと豊かな発想力に思わず引き込まれてゆきます。

描かれる世界はユートピアではなく、しかしディストピアでもなく、アンチクライマックスの連続でもあり、大きな事件などが起こるわけでもない一方、簡単に要約できないささやかな物語の数々が小川のせせらぎのように絶え間なく流れている様子は、ふと気がつけば我々自身が暮らすリアルワールドの反映そのもののようにも見えてきます。ただし、たとえば近未来小説に登場するような、ほんの少しだけ私たちの実世界と違っているワンダーランドとして。

加賀の作品の成り立ちに目を向けてみましょう。実際、作品の体系を一括りに説明することは困難です。作品の多くはキャラクターの日常を小さな木のボードにアクリル絵具で描いたものであり、同じ登場人物(動物)たちは、時に小さな彫刻に姿を変えて登場し、あるいは大きなキャンバスのタブローとして現れることもあります。加賀の小さな作品集の中でも彼らは繰り返し登場し、それぞれのシーンで印象的な光景や言葉を残していきます。可視化されたナンセンスな言葉の数々、時間が止まったような間の美学。それぞれの作品は素材や技法を超えて関連しあい、呼応しあうことによって独特のナラティブや残響を残していくことに成功しています。

時に失望や痛みをといったネガティブな問題を抱えつつも、いたって平然と、淡々とした日々を送る加賀ワールドの住人たちに感じる親近感は彼らが我々の時代の隣人でもありうるという印象からきているのでしょうか。いったい彼らのもつ独特の味わいはいったいどこからきているのでしょうか。加賀は高校卒業後まもなく語学留学のためにダブリンに渡り、その後はアイルランドの国立美術学校でアートを学んでおります。昨年まで約20年近く日本を離れていた加賀の、アーティストとしてのプラットフォームは2005年に最初にダブリンのギャラリーで作品を発表して以来、常にアイルランドにあったと言ってよいでしょう。自由闊達な表現手法や芸術的な実践はダブリンでの生活やアイルランド的なものの考え方に色濃く影響を受けている一方、もともとのオリジンである日本的な表現や文化も奥深く残り、これらふたつの要素が複雑に絡みあい、あるいは時には不協和音を奏でる世界観が加賀作品の本質であり、魅力でもあります。加賀作品の世界感が相反するふたつの作用によって表現されることが多いのもそのあたりに理由があるのかもしれません。

加賀の日本では初個展となる本展は「The Search For Languorous Magic」と題されています。日本語に翻訳することが少々困難なこの言葉をあえて説明すると、「だらだらとした気だるい」「魅力」を求めて、ということになるでしょうか。「languorous」=だらだらとした、というあまり肯定的でない表現が「magic」のような、本来ハッとさせられる魅力や輝きを連想させる言葉と結びついているところに実に加賀温らしい、相反するふたつの要素が作用することで初めて見つけられる、聞きなれないようで私たちにとって実は大変現実的な日々の気づきに目を向けるアートが生まれているのです。本展では木のボードに描かれた小品をいくつも並べる加賀の代表的なインスタレーションに、キャンバス作品、彫刻作品が加わることで、親しみやすいけれど捉えきれない不可思議な加賀ワールドを体験していただく日本では初めての個展となります。