古武家賢太郎

ヒロシマカラー

2017年05月12日(金) - 2017年06月24日(土)

〈Dawn〉2017 colour pencil on wood 84.1 x 59.5cm
《Omnipresence》 2017 colour pencils on wood 204 x 280 x 2.2 cm
ヒロシマカラー 展示風景
ヒロシマカラー 展示風景

MAHO KUBOTA GALLERYでは5月12日より古武家賢太郎の新作展「ヒロシマカラー」(Colours of Hiroshima) を開催いたします。

古武家賢太郎は2006年よりロンドンに拠点を移し制作を続けています。一目見るだけで彼の作品とはっきりとわかる、類まれな想像力と表現力を特徴とする作品の多くは、桜の木材で作られたボードに色鉛筆で描かれるごくシンプルな技法によって生み出されています。色鉛筆で描き重ねられる色彩表現の中には鮮やかに塗りつぶされた色面がある一方、支持体である桜の木の表面の滑らかなニュアンスがほんのり透けて浮かびあがる場面もあり、色彩の強弱のリズムが自然木の木目の流れの中で美しいコントラストを形成し、そこには人や森、謎めいた生き物や水辺の景色や生活の様子が広がっています。

少年時代にはゴッホやゴーギャンによる闊達な絵画に憧れていたという古武家は、多くの日本のアーティストが通過する美術系大学での専門教育を選択せず、ほぼ独学でユニークな表現方法を獲得しました。アーティストデビュー当時に注目された荒削りで自由なドローイングの時代を経たのち、古武家はより深い美術表現を求めロンドンのChelsea College of Artsに学びMFAを取得します。

初期の古武家の作品にはアメリカンコミックや、日本の漫画、80年代イラストレーションなどの影響がみられます。色鉛筆を太く使い紙の上に描いた伸びやかで大胆な描線が特徴的な初期作品では、頭の中にランダムに浮かぶイメージを直感的に手の動きに伝えたようなダイレクトな表現が見る人の心を捉えました。一方、ロンドン以降の作品では以前の表現には見られなかったイギリス絵画の影響も少なからず見られるようになってきました。技法は異なるとはいえ、表現の方向性から想起されるアーティストはたとえばルシアン・フロイド、ポーラ・レゴ、デイヴィッド・ホックニーなどが挙げられます。

それまで古武家の作品の核となっていた「トランスアバンギャルド」の再来を想起させる、喜びや悲しみ、恐れといった感情を寓話の世界の中に描き出すようなアプローチが、ロンドンでの制作を続けるうちに、かつてイギリスの戦後美術で重要な位置にあった「ソーシャルリアリズム」や「ブリティッシュポップ」の歴史文脈とむすびつき新たな形で花ひらいたのです。それは日常の中での人と人との関わりや共同体の中での個人の営みに対し真摯に視線を向け、それらに光をあてすくい取るように描きだす眼差しの絵画です。

ごくパーソナルで直接的な感情の表現の上に、人と人、人と共同体、あるいは人と自然の関係性を持ち込み、それによって揺れ動く心の揺らぎや変化を描きだすこと、そしてそれを独自の絵画のナラティブで寓話化し、普遍化すること。一見、社会との接続や批判性をもたないように見える古武家の絵画は、こうした制作の実践によって現代社会が背負っている問題を洗練された手法で顕在化させています。深い森をさまようように溢れ出る想像力のフローに、現代を生きる私たちに対して時に牙をむく日々の現実を潜り込ませる。そこには古武家賢太郎のみが表現できる澄んだ眼差しの気づき、夢のような世界の中での覚醒の感覚がともない、鑑賞者をより大きな物語の流れへと誘ってゆきます。

今回の新作展で発表される作品の多くは、およそ10年のイギリス生活を経て一時帰国した古武家が、故郷広島に4ヶ月滞在し制作した作品となります。20世紀の歴史の中で記号化された「ヒロシマ」と、現在の広島。そして遠い昔につながる広島。古武家の描きだす明るい色彩の中にはこれまでの作品と同様に、ほんの少しだけ毒や闇を含んだモチーフや、正体不明のいきもの達などが巧みに潜ませてありますが、それはアーティスト独自の解釈を交えた自然界の再現でもあり、そのことによって作品の世界はより生き生きと、そして自然のワンダーを伴って私達の日常とつながっていきます。地図の上におかれたピンは広島を示していますが、そこから広がる色彩が特別な色でなく、私たち鑑賞者の心の中にもともと描かれた明るい色であったことを、アーティストは美術の眼差しを通して表現しているようです。日々の暮らしの中で静かに、でも確かに光を放つ生命の輝き。古武家賢太郎の新作展に是非ご期待ください。